ドイツに行くと決めてから、まずは知り合いのアーティストに話しかけて情報収集。私は川口元郷にあった川口アートファクトリーに4年間アトリエを借りていたことがあったので当時の友人や先輩たちからドイツはアーティストに優しくて暮らしやすいという噂は良く耳にしていた。実際にドイツに移住した、という人も居て自分の周りの人間に前例があることは何よりも心強かった。それから友人の友人という具合に実際にドイツ人と知り合うことができ、私は彼を便りにベルリンへの飛行機のチケットを予約したのである。

前回の投稿にもあるように、10年前に私はなんとなくドイツで暮らしてみようと決めました。それまでは日本でアルバイトを掛け持ちしながら不安定な収入で毎月暮らしていたのだけど、ドイツに移住するとなるとその収入すらなくなってしまう。それはそれで怖かったけど、何よりも私の決心を強くしてくれたのはこんな毎日が死ぬまで続くのかという恐怖の方が大きかった。

そしてなんだかんだ私はこの土地に10年暮らしている。アーティストとして暮らすのはとても大変だ。ドイツに移住して本当に良かったと思う日もあれば、こんな異国で何してるんだろう。と思う日もある。

ヨーロッパは美しい。それは日本やアジア諸国とはまた別の種類の美しさだ。ロココ、バロック式の建築物や街並み、ライフスタイル。ガラス張りになっているカフェテラスで優雅にお茶する白人たち。移住前の私はその優雅さに一種の憧れのようなものを抱いていた。けれど私は白人にはなれないし、ガラス張りのカフェテラスで優雅にお茶とおしゃべりを楽しむこともこの先ないだろう。移住当初の私は10年後の私を想像したときに、きっとこのカフェテラスの優雅な人々の仲間入りをしているかもしれないと思い描いていた。けれど私は未だにその優雅なお茶会には程遠い生活をしている。それは私が優雅な人々になれないという少しだけのあきらめと、私にはそのライフスタイルは合わないという自覚があるからだ。

そういえば、先日ようやくドイツの永住権を手に入れた。永住権というよりかは無期限の滞在許可で色々制約はあるものの、数年に1回の面接や大量の書類を用意しなくてはならない面倒から開放された。永住権を手に入れたという実感や喜びのようなものはあまり無い。なぜなら、永住権があろうがなかろうが私は多分この先もずっと変わらずここでアートを生業に暮らし続けるのだろうという漠然とした自信のようなものがあるからだ。でもよく考えると、永住権はやっぱり良い。海外移住を実現するための大きなタスクが減ったことは精神的にもかなり楽。永住権で特に語るようなことはないけれど、いつか機会があれば書いてみようと思う。