アーティストとしてドイツで生きていくには色々と大変なこともあけれど、今日はドイツがアーティストに移住先として人気の理由をあげてみたいと思う。

ドイツはヨーロッパの真ん中に位置しているため、色んな国へのアクセスが簡単だ。なのでドイツにアート活動の拠点を置くと、北欧からアフリカ大陸のエジプト、モロッコ、中東のトルコ、イスラエルなど直行便を使えば半日足らずで移動できてしまう。LCCをうまく使えばコスト削減にもなる。これは東アジアの日本ではなかなか難しい。日本からだとヨーロッパに入るまで最短でも9時間、そこから乗り換えてまた3時間、4時間。さらに時差を入れると実質丸1日が潰れてします。ドイツに拠点を置くことによって、他の国へのアクセスできるというのはアーティストのキャリアを積む上ではとても大きいメリットである。

ドイツにはアーティストに対する社会保障が整備されている。収入に比例するが、VATの免除、芸術家基金に所属すれば年金と国民保険が半額負担になる。芸術家基金はドイツ語でKünstlersozialkasseと呼ばれるもので略してKSKと呼ばれている。私も長年、お世話になっている。加入するときには審査が行われる。アーティストとしての収入証明や、ジャンル、過去の経歴などを書類にしたものを提出しなければならない。日本語でドイツのKSKと検索すれば色々な情報が出てくる。

アートマーケットがたくさん開催されている。ドイツに限らず、ヨーロッパの至る所で大規模なアートマーケットからプライベートな自主イベントまで様々だ。これらの情報はアーティスト同士で交換されることがほとんどなので、ドイツで生きていくには知り合いや友達をたくさん作ることが鍵となる。できたら日本人同士ではない方が好ましい。一つのイベントに参加したら、そこに参加している他のアーティストと会話をして連絡先を交換し、いろんなイベントに出かける。制作する時間も大切だが、人のつながりも同じくらい大切だ。日本のアーティストたちは少なからず、良い作品を作り続けていればいずれ誰かが気がついてくれる、というスタンスの人をよく見かけるが、それは日本での話でヨーロッパでは特にドイツでは自分をアピールしないと誰も見向きもしない。ましてやアジア人アーティストなんてごまんと居る。高い競争率の中でどれだけ生き抜けるのかは、営業、コネ、自己主張を全てうまい具合にこなすのが何よりも大切だ。もちろん作品があるのは大前提である。

アーティストたちはどのように生計を立てているのだろうか。メジャーな手段はマーケットに出品して作品を売る、助成金や募金などに応募して制作に集中する、有名なアーティストのお手伝いをする。などが挙げられる。コンビニや飲食店でのアルバイトはなくもないが、日本のように求人がたくさんあるわけではないしビザの問題もある。ドイツはどのような職業に就くにも研修やちょっとした資格のようなものが必要なので、日本と比べると手軽に稼げるという環境ではない。もう一つ加えるとすると、低賃金で働くような環境にはトラブルが多い。給料未払い、嫌がらせ、人種差別などはよく聞く話で、ただでさえ自分の時間と労働力を提供してさらにストレスや不安を抱えるとなるとアートとはかけ離れた生活になってしまう。そうなるともはや本末転倒である。

アーティストと言えども色々なジャンルがあって、ライフスタイルは人それぞれだ。ミュージシャンやダンサーなどはまた違うライフスタイルだろう。今日は私が携わるドイツにおける美術アーティストの生活の一部を紹介してみた。私もドイツで10年、色々なキャリアを積み重ねながらようやくドイツでアーティストとしてするべきことが見えてきた。このペースだとアーティストの一生はとても短くて果敢ないものなのだなと感じる。だからきっとドイツ人はアートが好きな人が多いのかもしれない。ここに挙げた例はごく一部で、まだまだ書きたいことはたくさんあるけれどとりあえうず今日はここまでにしておく。