アイスランドは不思議な場所だ。土に養分が足りず、木が生えていない。火山や溶岩でできたフィヨルドの上には雪が乗っている。海辺の砂浜も黒い。海の色は日本海の岩場の色と似ているが、雰囲気は富士山のよう岩石を思い出させる。
私はアイスランドの北側に浮かぶ小さな島に2ヶ月間住んだ。60人ほどの住人と、2軒あるレストラン、小さな売店。売店の営業時間は午前とごごに2時間ずつ、レストランは週末の夕方のみ。私た滞在していた時期は冬だったが、これが夏になると営業時間が変わる。
この島にたどり着くまでには1時間に一本運行されているフェリーに乗る。フェリーの料金は忘れてしまったが、緊急事態の場合には電話をすると運行してくれるという。島の中には医療施設などが無い。何かあった場合にはフェリーもしくはヘリコプターを呼ぶのだろうか。この辺のことをもっと詳しく聞けばよかった。
アイスランドの人々はとても働き者だ。知り合った人の中にはもう何年も休日を取らずに毎日職場へ行っているという。そして、案外皆適当に生きている。田舎に似たような時間の流れ方だった。
アイスランドで小さな展示会をした時に、終わった後に皆でレストランで食事をした。酒が進んだ頃に隣の席に座っていた漁師が一緒に飲もうと声をかけてきた。彼はイギリスだったかエストニアだったか、とにかくアイスランドの地元の人ではなく漁師として出稼ぎに来ていたという。そして、恐ろしいほど酒を大量に飲んでいた。レストランが閉店すると同時に、彼は自分の家に誘ってきた。同席していたアーティストの友達三人と、漁師の彼と酒を飲むのだが、大音量の音楽と大量のジンやウォッカを棚から出してテーブルの上に並べたくり、飲め飲めと進めてくる。最初の頃は楽しかったが、段々酔っ払い達の顔が怖くなってき他ので適当な言い訳を作って帰路についた。のだが、漁師はうちまでついてきて、中に入れろと騒ぎ立てる。中に入れたところで酒を飲むつもりなどない。なかなかしつこいので追い返すのに苦労した。次の日、酒を抜こうとアイスランドの温泉プールで使っていると、子供用の浅いプールで大の字に寝そべっている彼を見かけた。顔の表情を見る限り、ひどい二日酔いのようだった。私たちがアイスランドを離れて数週間後、彼が釣り上げた魚が記録的にでかいのでSNSに取り上げられていたのを目にした。シャキッとして筋肉隆々の腕に持ち上げられた大きな魚の写真。とてもあの晩と同じおっさんとは思えないほどだった。
アイスランドにはいくつかのパワースポットがある。パワースポットと聞いたらなんだか怪しいな、と思う。が、アイスランドのそれは違う。大地がもつエネルギーが直に流れ出している、不思議な空気を纏っている。アイスランドの魅力に取り憑かれてしまった人は、毎年遊びに来るという。特にニューヨークからは6時間程度。アメリカ人にとても人気だそうだ。
いろいろな場所に出かけて行ったが、アイスランドはもう一度必ず遊びに行きたいと強く思う。